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編集部だより

ある残念な一家の話 2009.11.20
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先日、自宅でちょっとした事故があった。
私と両親と三人でつつましく暮らす我が家では、父が少し変わり者なので、毎日父がらみの何かしらのネタが生まれる。
「仕方ないな〜」と笑って済ませられる程度のことがほとんどだが、今回ばかりは、笑えない事態が起きた。こんなに怒りが湧いたのは久しぶりのことである。
 
それは、夜九時半頃のことだった。
私が仕事から帰ってくると、父はいそいそと「サービス、サービス」と言って、夕食の鍋に火をかけた。その際、台所の備え付けのものではなく、食卓でそのまま使えるガスコンロを使用した。


私が鍋に背を向けてご飯をよそっている間に、父が「よし、もう沸騰したぞ」と言った。
振り返ると、鍋の下から火が吹き出している。火を止めようと、火力調整つまみに手を伸ばして、ハッとした。


火力のスイッチはすでに切れていた。ではこの尋常ではない火は何だ!?


「鍋が燃えてる!」


テレビを観ていた母は異変に気付くと、驚きのあまり立ち上がった。その間にも、火の勢いはどんどん増していく。
父だけがソファに座ったまま、のんびりとこちらを見ていた。あとで聞いたところによると、なぜこんなことになっているのか、状況を把握しようと努めていたようだが、こちらからするとただボーっとしているようにしか見えなかった。
 
どうやら鍋の裏に布製の鍋敷がくっついているのに気付かぬまま、ガスコンロの火にかけてしまったようなのだ。つまり燃えているのは、鍋敷なのである。という事実に気付いたとき、愕然とした。


父がようやく立ち上がり、鍋をどうにかして持ち上げると、何を思ったのか、その鍋を使って、燃えている鍋敷を私の方に押しやってきた。
鍋から解放され、大量の酸素を得た鍋敷は、突如、天井まで届かんばかりに燃え上がった。


まだ一応、ガスコンロの上に鍋敷は乗ったままだが、父が余計なことをしたせいで不安定な体勢になっており、いつテーブルの上に落ちるかわからない。
鍋敷だけが燃えているのならまだ手立てはあるが、テーブルは木製なので、落ちると厄介だ。おまけに、火種になりそうなものが近くにたくさんあった。
 
母は「どうしよう、どうしよう、どうしたらいいの!?」とパニック状態。
父は優雅に腕を組み、ゆっくりと戦略を練っている。
瞬時に、「誰も頼りにならない」と悟った。


このときの位置関係を説明しよう。我が家の食卓は居間の突き当たり、対面キッチンと壁に挟まれた凸の出っ張り部分に位置する。私は突き当たりの壁際、つまり奥の奥にいた。居間に行くのにはテーブルと対面キッチンの間の狭い道を通らなければならない。


火がどこかに引火して燃え広がるようなら、私に逃げ場はない。対して両親は、居間にいたので、いつでも逃げられる自由があった。
こうなったら、自分の命は自分で守るしかない。
 
素早くテーブルの上を見渡す。豆腐の入っていた空のビニールパックと、おたまを発見。おたまはステンレス製…燃えないはず! 自分の乏しい知識を頼りに、おたまで慎重にファイヤー鍋敷をガスコンロから掬いとった。


もはやコップに入った水をかけて収まるレベルの火ではない。
ボーボー燃えている鍋敷を乗せたおたまを、消えかけの線香花火のように、そっと繊細に持ちながら(しかし勢いはまるでキャンプファイヤー)、三つの選択肢をはじき出した。
 
1. このままそうっと歩き、台所までおたまを持っていく(そして水につける)
2. 思い切って対面キッチンの隙間から洗い場めがけて、鍋敷を放り投げてみる
3. 洗い桶に水を入れて、自分のいるところまで持ってきてもらう
 
1と2の選択肢が問題外なのは言うまでもない。


「たらいに水張って持ってこい!」と、ここまで江戸っ子っぽくはないが、その旨を叫ぶと、母はおろおろしながら台所に駆け込んだ。父がその後にちょこちょことついていき、洗い桶いっぱいに水を入れようとしている母に対し、「そんなに大量に入れなくていいぞ」などとアドバイスをしている。


そしてようやく、母が必死の形相で持ってきた洗い桶の水にキャンプファイヤー鍋敷をつけ、鎮火させることができた。
わずか一分程度の出来事だった。
 
危機から脱した後も、私と母が衝撃から抜け出せず、寿命を縮め、思わずへたりこんでいるのに対し、父は「ハッハッハ」と朗らかに笑っている。自分が原因のくせに、まるで他人事なのだ。


「危なかった、危なかった。ガスボンベに引火して爆発しなくて良かったな。

(父が燃えている鍋敷を私の方に押しやったのはこういう理由からだった)
まぁ仮に爆発したとしても、家族三人で死ねたら本望じゃないか」
 
女二人は怒り心頭、ここにお書きすることはできないが、とても一家の大黒柱に対しての言葉とは思えないような暴言を吐きまくった。
しかし父は飄々とし、「昔、よく川辺で焚火をやっていたから平気だ」などとのたまう。室内で焚火はしないだろう…という反論すらも面倒になった。


もともと、やかんに火をかけっぱなしで風呂に入ってしまうような父だった。火の消し忘れも良くあり、あたためるべきものが何もないのに、ガスコンロの火だけが揺れているのを何度も目撃した。
 
事故直後の、両親の言葉で締めたいと思う。
父:「これからも家族で支え合って生きていこうな」
母:「●●(私の名前)、お父さんね、燃えた鍋敷を燃えないゴミに出したのよ…」


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