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編集部だより

ある編集部員の平凡な一日 2012.09.18
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体の不調が続いたので、MRI検査を受けることになった。


噂には聞いていたが、人生初である。

トンネルのような狭い所に入り、工事現場の騒音のような大音量を浴びながら、ひたすらじっとするらしい。「アレ狭くて怖いよ~」と脅す人もいた。

しかし私は閉所も暗所も好きだったので問題なし。むしろ少し楽しみにしていた。


病院でもらった地図を確認すると、MRIセンターは駅から徒歩5分。

直進して左に曲がる程度の、迷いようのない単純な道だった。

だが案の定、迷った。20分経ってもそれらしき建物すら見えない。

道を一本間違えたようだ。
半べそをかきながら、近くにいた八百屋のおじさんに地図を見せて道を聞く。

私はその地図上にすらいないことがわかった。

「あんた今この辺だよ」とおじさんの指が地図の3センチ上の宙を差す。

地元民ならではの的確なショートカットをおじさんに教えてもらい、何とか間に合った。


出ばなを挫かれた感があったが、気を取り直し、華やかな受付嬢の指示に従い手続きを済ませた。

名を呼ばれ、地下へと誘導される。

 

地下は薄暗く、降りた瞬間からごうんごうんと地鳴りのような、騒音ではなく「轟音」が響いていた。


ここで初めて怯んだ。

閉め切られた頑丈な扉には「keep out」と書かれていた気もするし、書かれていなかった気もする。

地上の受付嬢と違い、地下の受付嬢は顔色が悪く覇気がなかった。

私より先に地下で待たされていた人々は、新入りの私を無言のまま冷めた目で一瞥すると、すぐ手元の本やウォークマンに戻った。

ただ一人、眼鏡とマスクで顔を覆った年齢不詳の女性だけが、私の方を何度も見ていた(私も眼鏡とマスクをしていた)。

轟音が鳴り響いているのに、奇妙な静けさがあった。

その空間は、明らかに地上とは違っていた。


とんでもないところに来てしまった。

すぐにそう悟った。

胸のときめきがざわめきへと変わる。
私はしばらく、女性の袖にプリントされたドクロを見つめていた。


やがてkeep outの部屋に呼び込まれた私は、白熱灯の眩しさにくらくらした。

めっちゃ明るい。

「MRIは初めてですかー?」担当の男性スタッフも明るい。体操のおにいさんを連想させる。また別の世界に来てしまったようだ。


「ハイここに横になってくださいねー。ぴくりとも動かないでください、動きに弱い精密機械ですから。動くとやり直しになって時間がかかりますからねー」

 

横になった私は、体中をバンドでグルグル巻きにされた。これだけがんじがらめにされては、動けるものも動けまい。

私は例のトンネルへと運び込まれていった。

ヘッドホンを装着すると、轟音はだいぶ気にならなくなった。


中は思った以上に狭かった。目の前がもう壁だ。少し驚いたがすぐ慣れた。

そんなことよりもっと厄介な事実に気付いた。

私はそもそも、5分と同じ姿勢でいられないほどの左足の痺れと痛みの原因が知りたくて、検査を受けたのだ…。


左足が悲鳴を上げ始めた。体勢を変えたい衝動に駆られる。

だが微動だにするなと念を押されている。


私は別のことに意識を向けるため、過去に起きた色々な面白いことを思い出した。

それがいけなかった。足の痛みを忘れることには成功したが、今度は思い出し笑いのビッグウェーブに襲われた。

笑いが爆発したら微動どころではないぞ。

笑うな、笑うな…と思うほど無情にも笑いが込み上げる。

さらに、機械のドンドコドンドコというリズミカルな音が急に滑稽に思えてきて、おかしさに拍車をかける。私は耐えに耐えた。


やがて音が鳴り止み、機械の震動が止まった。

終わった…。私は耐え抜いたのだ。

体操のおにいさんが足元から声をかけてきた。


「あのー、お腹の動きが大きくて、写真に反映されちゃってます。ちょっと呼吸を浅めにして、胸で息をするように意識してください」


!? やり直しだ! 浅めの呼吸? 腹を動かすな?


どのようにすれば体の動きが極力抑えられるのか…ベストは呼吸をしないことだが死んでしまう…緊張すると呼吸が浅くなるというが、あの感じを思い出せば良いのか…

試行錯誤を繰り返し、私はついにコツを掴んだ。

ウサギの呼吸の要領だ。速く浅く。こうすると胸も腹もそんなに動かない。


私はかつてないほど、精神を統一をさせた。

油断は許されない。少しの気の緩みが腹に出る。密度の濃い時間が過ぎていった。

やがて、自分が呼吸しているのかしていないのかすらわからない領域にまで達した。

MRIが終わる頃には、私は呼吸の達人になっていたのだ。

顔つきも変わっていたと思う。


「ハイッ!綺麗な写真が撮れました〜お疲れさまです!」と体操のおにいさんが言った。

検査結果を焼いたCDロムをもらった。

それを携え、病院へ行く。


「あ、ヘルニアですねー」


私の壮大で長い一日が終わった。

 


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