
好評連載コラム
芸能人インタビュー
- 素晴らしい出会いに背中を押され歩んだ演劇人生。「今が一番〝おいしい”んじゃないかな」
- 2025.06.16
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世田谷パブリックシアター×ワジディ・ムワワド×上村聡史による上演シリーズ第4弾『みんな鳥になって』。『炎 アンサンディ』、『岸 リトラル』、『森 フォレ』に続く本作は、民族や国境の壁に焦点を当てた壮大な叙事詩。出演の麻実れいさんに意気込みを伺いました。
民族・国境・歴史…難しい題材を美しい台詞で綴る
スラリとした立ち姿と、射抜くような力強いまなざしが印象的な麻実れいさん。ムワワド戯曲への参加は『炎 アンサンディ』、『森 フォレ』に続き3度目となります。
「1作目の『炎』は衝撃でしたね。中東の内戦を背景にした物語でしたが、まず初めて台本を読ませていただいた時、もう号泣しちゃって。それから本読みの時にもやっぱり涙が止まらなくなって、『今日だけは泣かせて』と言った覚えがあるんです。ああいう作品との出会いって、役者人生にあるかないか。演劇人として大きなものを頂きました」
6月28日に開幕する舞台『みんな鳥になって』は、前3作の世界観を引き継ぎながら、いま世界が抱える問題に真正面から切り込んだ、ムワワドの代表作の一つ。ユダヤ系ドイツ人の青年が、アラブ人女性との交際を頑なに認めない父のルーツに疑念を持つことから物語は展開します。麻実さんが演じるのは青年の祖母レア。父の出生の秘密を知る一人であり、物語の鍵を握る重要な人物です。
「レアという年を重ねた女性のお役を頂きました。すごく良いお役で、この台詞を言えるのだったら頑張らなくちゃって思っているところです。でもはっきり言って、ムワワドさんの作品は非常に難しい。特に今回はいろいろな国の名前が出てきますし、人種の問題もありますから。でも、その辺りが整理されたら、あとは同じ人間ということで、スーッと通るのではないでしょうか。
それとムワワドさんの作品って、純粋で素朴で、麻とか綿の感触があるんです。シルクとかレーヨンじゃなくて、下手したら皮膚が傷つくくらいガサついている感覚。そういう魅力も、きちんとお客様に提示できたらいいなと」
大変な作業になりそうですが、と笑みを浮かべる麻実さん。大役に挑むには、過去の積み重ねも重要です。
「やはり蓄積がなかったら、こういう大きな役はできません。私も年齢が年齢で、おかげさまで息子を2人育てましたし、舞台を通してさまざまな世界を垣間見てきました。そういう蓄積が、ここに来て役に立つと思います」宝塚歌劇団退団後に「自然培養」された繊細な演技力
「おかげさまで、すごくツイていた演劇人生だと思うんですよね。宝塚卒業後は『シカゴ』、『マクベス』、『双頭の鷲』と大きな芝居が続いて、ミュージカルは東宝、芝居は松竹で育てていただきました。そして、私のことを全く知らない海外の演出家と組ませていただいた際には、演劇というものを改めて教えてもらった。すべてが最高の状況で、ずっとやってこられたわけです。自然培養じゃないけれど(笑)、そうやってジュクジュクと大きくなって、自分では今が一番〝おいしい”んじゃないかなって思いますけれど」
多くの出会いを経て、類い稀なる演技力の礎を築いた麻実さん。芸能生活も半世紀を超えた今、どんな思いをお持ちなのでしょうか。
「いつもそうですが、頂いた目の前の作品しか頭の中に無いんです。この次は何、前は何だったって全く無く、今ここでぶつかるわけです。そうさせてくれる演劇の神様に感謝しながら。ずっと続けられるものではないからこそ、与えられた時間の中で何とか頑張って、皆様の記憶に残る作品をお出ししたい。ただそれだけです。もちろん、その役で生きられなくなった時には速やかに降りなくてはいけない(笑)。役者として、そう思います」■プロフィール
女優/麻実 れい
1950年東京都出身。68年に宝塚音楽学校へ入学し、70年に宝塚歌劇団入団。『ハロー・タカラヅカ』で初舞台を踏み、80年、雪組男役トップスターに就任。85年に宝塚歌劇団を退団してからはミュージカル、古典、翻訳劇などに出演し、『オイディプス王』『タイタス・アンドロニカス』など海外公演にも多数出演。06年に紫綬褒章、20年秋の叙勲で旭日小綬章を受章。
■インフォメーション
『みんな鳥になって』
作/ワジディ・ムワワド 翻訳/藤井慎太郎 演出/上村聡史
出演/中島裕翔、岡本健一、岡本玲、那須佐代子、松岡依都美、伊達暁、相島一之、麻実れい
日程/6月28日(土)~7月21日(月・祝)
会場/世田谷パブリックシアター
料金(全席指定・税込)/S席:10,000円、A席:6,500円
【問】世田谷パブリックシアターチケットセンター
03-5432-1515(10:00~19:00)
※兵庫、愛知、岡山、福岡でも公演あり