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芸能人インタビュー

若尾文子/女優 インタビュー 2008.10.26
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女優として、人として。
現在(いま)だけを見据え「絶え間なく続ける」生き方

 上品さと妖艶さをあわせ持ち、日本映画黄金期から現在まで第一線の女優として、芸能界で活躍を続ける若尾文子さん。最愛の伴侶・黒川紀章氏が亡くなり一年が過ぎ、気持ちも新たに臨む舞台『華々しき一族』。今回は女優・若尾文子さんに、舞台への思いや、その凛とした生き方についてお話いただきました。

 

悩み苦しみ抜いた先にふっと見える進むべき道

 日本映画の黄金期にスターとして不動の地位を確立した若尾文子さん。凛とした姿と静かに響く美しい声、そこに居るだけで周囲の空気を一変させ、全てを引き込む艶やかな眼差し。これほど女優という言葉が似合う方も少ないのではないでしょうか。アメリカ映画に憧れた少女は、その類いまれな才能で日本映画の黄金期を支える存在に成長します。しかしそれは華やかさだけではない、真の物作りの現場で直面した苦しい日々の始まりでした。

 「アメリカ映画が日本に初めて入ってきた頃で、学校では絶対に観てはいけないと言われていましたが、父と一緒に行ったりして何とか映画館に入ったものです。日本に輸入された外国映画の第一作から観ているんですよ。スクリーンに映るのはまさに夢の世界。まさか自分が映画にでるなんて思いもしませんでしたが、そこは本当に厳しい場所。『私、このまま生きてていいのかな』って思わずにはいられない日々でした。撮影所にいるのは職人ばかりで、特に名匠といわれるような監督は個性も強く、職人の極みでした。撮影所以外の姿は想像もできなくて、直接話をすることもはばかられる絶対の存在でしたね。そんな環境の中で、本当に極限まで精神的に追い詰められるんです。問題を突き付けられ、自分の全てを否定されて。それでも『では、どうしたらいいんだろう?』って必死にもがくわけです。今の若い人はそこで相手が悪いと考えてプツリと切れてしまう。でも、私たちの時代はそうではなかったんです。これはきっと幸せなことだったのね。そして今度は、自分で自分を追い詰めてどうしようもない所まで行く。すると人間って不思議なもので、何とかなってしまうんです。そういう思いは、役者をしていて何度も経験しましたよ。ある所まで行くと、パァっと道筋が見えてきてそこから先はすっと出来てしまう。でもそれは必死に、もうだめだと思っても、それでも前に向かって進んだ先に見えてくるものだと思うんです。

 私のような年齢になると、そんな厳しさを教えてくれる方も減っていきます。今でも役者として悩むことがたくさんあります。私の限界はここなのかな、とかね。でも、それが限界だと感じても、その範囲で芝居するなんてできません。何とかその先に進む道を探します。私はそういう時、映画をよく観ます。特にイギリス映画。本当に上手な女優さんがいますからね。そういう役者の演技を観ていると、ふっと目が開く時があるんです。それはもう自分で学んでいく他ありません。悩んで苦しんで学ぶ。脚本をいただいてすぐ出来てしまうなんて、役者のあるべき姿ではないように思います。下手でも何でもいいのよ、一つでも光る何かがあれば。

 随分前のことですが、蜷川(幸雄)さん演出の舞台のお仕事のお話をいただいたことがあるんです。でも私は蜷川さんが“恐い”というイメージが強過ぎて、できませんってお断りしてしまったんです。今考えれば本当に惜しいことをした(笑)。後になって蜷川さんにお会いする機会があって、その時のことを話してお詫び申し上げたんです。笑っておられましたけどね」

 

先のことは見ないいつも現在に一生懸命

 この映画時代に培われた、物を作ることへのこだわりは、年齢を重ねた今でも若尾さんの女優としてのバイタリティとなっています。そんな若尾さんが大切にしていることが『絶え間なく続ける』こと。

 「私の場合、女優という人に観られる仕事ですからなおのことですが、健康であることも含めて毎日の生活すべてに気をつかいます。そのための努力を絶え間なく続け、その情熱を失わないこと。ただそれだけのことなんです。長く女優を続ける秘訣なんてありません。毎回、もうこれで最後にしようって思いますが、もし仕事を辞めてしまったら、毎日の生活のあらゆることに情熱を持てないのではと不安になります。ですから私は仕事をしなくなっても、情熱を失わない努力は続けるつもりです。その時は女優としてというよりも、人として後ろ指をさされるようなことのないよう、毎日の生活を送るためにね」

 こうして絶え間なく続けてきた女優という道。決して優しくはなかった道を歩む時、若尾さんは未来よりもむしろ“現在(いま)”を見るようになったそうです。

 「終わりのみえない先のことに目を向けてしまうと辛くなってしまいます。ですから私は先のことを考えない。昔からそうなんですが、今目の前にある事に向き合うんです。それに対して最大限の努力をする。その結果として次ぎということはありますが、来年のことを考えたことはありません。自分の寿命や役者としていつまでできるかなんて考えても仕方ありませんよね。ただ、自分に厳しいあまり周囲にも厳しくなってしまうことがあって、それは反省しています(笑)」

 

今改めて思う舞台への情熱。憧れの杉村春子の代表作に挑戦

 常に現在(いま)をみる若尾さん。今、全力で取り組むのが舞台『華々しき一族』。若くして世を去った天才劇作家・森本薫の傑作舞台です。それぞれの子を連れて一つになったある家族と一人の同居人。この同居人をめぐり、血のつながらない家族の間に生じる微妙な愛情と心の機微を細やかに描いた会話劇です。若尾さんはその中で同居人に思いを寄せられながらも家族のつながりを求める女性を演じます。

 「演出家、プロデューサー、脚本家の皆さんと今度は何をするかを時間をかけて話し合うんです。それで私、前回翻訳劇をやらせていただきましたので、今回は日本のものを演じたい、もう一度日本の作品に戻ってみようって提案したんです。結果的に『華々しき一族』に落ち着いたわけですが、実はこの舞台は杉村春子さんの当たり役となったものなんです。それで落ち着いてみたら、これはやっぱり杉村春子さんだからこそできたものということがだんだん分かってきたんです。彼女の技術、女優として生きたすべてをそのままで見せられて、お客様を満足させられるのだと」

 キャリアを積んだ若尾さんにとっても、やはり杉村春子さんは大きく特別な存在なのだそうです。

 「本当に特別な存在。年を重ねるにしたがってあの方の良さ、他の誰にも真似のできない情感をたっぷりとお持ちでした。最近になってすごくそれが分かります。年齢的には近付いたのに、まだまだ教えられるばかり(笑)。杉村さんの舞台は全てみたわけではありませんが、ある舞台での登場シーンでビックリしたことをよく覚えています。姿はまだ見えてこない時に声だけが聞こえてくるんです。とても華やいだ嬌声のようで、会場にいた誰もが一瞬で心を奪われたように、まだ見えない杉村さんの釘付けとなった。それを最近、石井ふく子先生にお話をしたら、『あれはただの笑い声よ』っておっしゃるんです」

 今回の『華々しき一族』でも、杉村春子という大女優を意識しないわけにはいかないと言いつつ、若尾さんは舞台への意欲を語ります。

 「この作品は、本当に瑞々しくて華やかだと思います。きれいな色で描かれた絵画のような。書かれてから相当な時間が経っていますが、その世界は決して色褪せることはありません。色褪せることのないようにしなくちゃ! まずはその色を感じていただけるように作り上げていきたいですね。また、登場する男女の心裏状態を、演出の石井ふく子先生が女性だからこそ気づく細やかさで描き出します。今回のような微妙な男女の心の動きを洒落た会話で描く作品に最適な方だと思います。

 私は諏訪という女性を演じますが、彼女の瑞々しさやかわいらしさをお見せできればと思います。 女優として産みの苦しみはいつもの事ですが、今回は特にプレッシャーを感じますね。杉村春子さんという大きな存在を前に、とんでもないこと始めてしまったという思いです。けれど真似しようたってできっこないんだから(笑)。亡くなった黒川も最期まで私に女優という仕事は続けて欲しいと言っておりましたので、今はただこの舞台を成功させたいと思うだけです。ただ、黒川がいなくなってしまったことを実感するのは、まだまだ時間がかかりそうなんですけどね」

 日本の演劇史に残る傑作舞台を前に少女のように顔を輝かせる若尾さん。自身を律する姿勢からは、さらなる円熟期を迎えた女優の芸へのあくなき追求がみえてきます。

 「これでいいと思うことなんて決してありません。どこまで行っても終わることのないのがこの仕事です。今になって昔の映像なんか観てしまうと『あぁ?やり直したい』って思いますもの(笑)。でも、そうね…。もしやり直せるものならイギリスに生まれて、そこで女優としてやってみたいわ。成熟した演劇の国で自分をどう表現するか。ダメなら容赦なくブーイングされて、やりがいがあるじゃない!」


若尾文子 わかお・あやこ
1933年東京生まれ。大映の第5期ニューフェイスとして映画界入り。1952年小石栄一監督の『死の街を脱れて』で映画デビュー。日本を代表する美人女優として『青空娘』『刺青』『千羽鶴』などの増村保造をはじめ、名だたる監督と日本映画史に残る数多くの名作に出演。大映以降は活躍の場をテレビ、舞台へと移す。『雪国』で初舞台を踏み、以降『ウェストサイドワルツ』『セレブの資格』などの翻訳劇から、石井ふく子演出の『花のひと 深川亭』『花の情』など多くの舞台に出演。11月には話題の舞台『華々しき一族』が幕を開ける。

 

舞台『華々しき一族』

原作/森本薫 演出/石井ふく子 出演/若尾文子、西郷輝彦、藤谷美紀、
松村雄基、吉野紗香、徳重聡 期間/2008年11月6日(木)~16日(日) 会場/ル テアトル銀座 料金/9,000円(全席指定・税込)

●お問い合わせは 電話:03-3234-9999 チケットスペースまで。

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