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芸能人インタビュー
- 作品が終わっても物語は続く。演じるとは、ひとりの人生を背負うことだと思います 2012.05.21
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作品が終わっても物語は続く。
演じるとは、ひとりの人生を背負うことだと思います
「いちファンとして、本当に嬉しい」―'09年にスタートし、大ヒットを飛ばした
テレビドラマ『臨場』。続編を望む多くの声に応え、本作がついに劇場版とし
て帰ってくる! ドラマから引き続き出演する松下由樹さんに、
『臨場 劇場版』への想いや、見どころについて伺った。
■続編希望の声に応え、大ヒットドラマ『臨場』が待望の映画化
「私、会場のど真ん中で観たんです。こんな機会は滅多にないから、『一番良い席で観なきゃ!』って(笑)。大スクリーンで観るのにふさわしいダイナミックな演出と、テレビシリーズから決してぶれることのない一本の芯。『ああ、本当に戻ってきたんだ』と感無量でした。これまでの積み重ねもありつつ、ひとつの作品として魅力的に仕上がっているので、テレビシリーズをご覧頂いた方はもちろん、初めての方にもきっとご満足頂けると思います。観る前は、DVDをお勧めした方が良いのかしらなんて思っていましたが…(笑)」
試写会を観たばかりの松下さんは、興奮冷めやらぬご様子。しかしそれは取材陣も同じ。その場にいる皆が本作について熱く語り合ううちに、いつの間にか貴重な取材時間が残りわずかに…。
『臨場 劇場版』はそれほど、人を惹き付ける力があった。
“俺のとは違うなあ”―そんな名文句で既成概念をぶち壊す。組織に与せず、己の道を貫く検視官・倉石義男。検視官とは刑事訴訟法に基づき、変死体の状況捜査を行う司法警察員だ。現場と遺体の状況を仔細に観察することで、死因の事件性の有無を見定める。倉石は現場に残された死者の声を“根こそぎ拾う”ことを信条とし、死に隠された真実を見つけ出していく。
豪放で型破りながらも人情味に溢れた倉石(役/内野聖陽)のキャラクター、リアリティと緊張感に満ちた検視シーン、事件に関わる者たちが織り成すストーリーの奥深さ。'09年4月にテレビ朝日系列で放送されるや、多くの視聴者が魅了された『臨場』。翌年には続章が放送され、平均視聴率17・6%という快挙を成し遂げた。放送終了後もおさまることのない『続編希望』の声に応え、満を持して映画化が実現したのだ。
松下さんが演じるのは、倉石を尊敬し、倉石のような検視官を目指す部下の小坂留美だ。
「また留美として生きられるのが嬉しくてたまらなかった。ドラマが完結した後もずっと、彼らは私の中に息づいていましたから。テレビとはまた違うスケールで留美を演じることに緊張感もありましたけれど、それ以上に、臨場の世界観を二時間でどう魅せていくのか、楽しみの方が大きかったですね」
ファンよりも、実は松下さんの方が喜んでいるのかもしれない。■さまざまな女性の生き方を演じ分ける
『演技の達人』
これまで多くの女性を演じてきた松下さん。
姉の婚約者を奪う妹という衝撃的な役、「朝倉~!」とドジな新人を叱ってばかりの先輩ナース、大奥史上最強の女帝・春日局…。
また、バラエティ番組のミニコントで見せた、コミカルな演技が印象に残っている人もいるかもしれない。
松下さんは不思議な人だ。どんな役にもなりきってしまうと同時に、すべての役が、松下さんそのものであるかのように感じられる。
実際、松下さんは役のイメージで見られることが多いそうだ。
「嫌われ役をやった時は、そういう目で見られましたね(笑)。あと、街を歩いていて、役名で呼ばれることもあります。たとえば臨場のドラマに出ていた時は、『小坂さん!』とか。役として見てもらえることはとても嬉しいし、誇らしいです。作品の世界がひとつの現実としてきちんと成り立っていて、その中で生きることができたって証ですから。描写されなくても、今その人がどんなふうに生きているのか想像できるような…私自身もそういう作品が観たいですね。
役には名前があって、それぞれに人生があります。演じることは、その人の人生を背負うこと。役に敬意を払い、役を愛して、一人の人間として誠実に向き合いたいです」
こういう人だからこそ、内側から込み上げるような演技ができるのかもしれない…と唸っていると、ふいに、松下さんが笑った。
「私、良い職業についたと思っているの。ウフフ。役者には、定年や年齢制限がないでしょう? とても幸せですよね。いくつになっても、“今”の自分だからこそ表現できるものがあるんです。でも…」と肩をすくめる。
「そのためにはちゃんと年を重ねて、年齢にふさわしい自分でいないと。それがなかなか難しいんです。前向きに、一日一日を楽しみながら積み重ねていくことが大切なのかな、と思っています」■名優たちが魂を吹き込んだ珠玉の作品。『根こそぎ』ご覧ください
そんな松下さんが、二年ぶりに検視官の制服に袖を通した。
『臨場 劇場版』は、背筋が凍る殺人シーンで幕を開ける―。
都内で無差別通り魔事件が発生した。だが犯人は、被害者遺族たちの願いも虚しく心神喪失が認められ、刑法第39条により無罪となってしまう。その二年後、事件を無罪へと導いた弁護士と、精神鑑定を行った医師が相次いで殺害される。二年前の事件の遺族が疑われるが、「俺のとは違うなあ」―倉石は死亡推定時刻に疑問を抱き、犯人は別にいると考える。捜査本部と衝突しても、検視官としての立場を踏み越えても、死者の最後の声を「根こそぎ拾い尽くす」ため、倉石は愚直なまでにがむしゃらに突き進んでいく…。
緊迫したリアリティで冒頭から観客の心を引きずり込み、息をつくことさえ許さない。複数の事件や登場人物それぞれの思惑が幾重にも絡み合い、交錯する。通り魔事件によって理不尽に娘の命を奪われた母親は、「あの日、娘はなぜあの場所にいたのか」と答えのない問いを繰り返し、事件現場を歩き続ける―。
「事件が解決に向けて進んでいく一方で、遺族の方々の行き場のない哀しみや怒りは変わらずそこにある。ヒリヒリするような痛みの中、『拾えるものは根こそぎ拾ってやれ!』と命を注ぎ込む倉石さんの存在に、留美も励まされるし、私自身も縋るような想いを抱いていました。この感情にもっとも近い言葉は『救い』かもしれません。絡み合っていた糸がほどけ、ひとつの真実が導き出された時、胸がいっぱいになって涙が溢れました。ただ犯人を見つけて終わりではなく、ああ、ここまで掬い取ってくれるんだって…」
松下さんは困ったように首を振った。
「伝えたいことが多すぎて、言葉にするのが難しいですね。一言、まさに『根こそぎ』観て頂きたい作品です!」
この熱を、ぜひ劇場で体感してほしい。
まつした・ゆき 1968年愛知県出身。'83年『アイコ十六歳』でデビュー。その後舞台、映画、テレビドラマと幅広く活躍。『ココリコミラクル』('01年)でバラエティに、『大奥 第一章』('04年)では連続時代劇に初挑戦。'09年・'10年『臨場』シリーズに出演。現在、『Wの悲劇』に出演中。●インフォメーション
「臨場 劇場版」
大ヒットドラマ『臨場』が映画で帰ってくる!
迫真のリアリズムで魅せるヒューマンストーリー
・原作/横山秀夫
・監督/橋本一
・出演/内野聖陽、松下由樹、渡辺大、平山浩行、 高嶋政伸/段田安則、
若村麻由美、長塚京三 他
・ 6月30日(土)全国ロードショー