大学時代、動物写真家の父・徳光さんと訪れたガラパゴス諸島の美しさに感動し、父と同じ道を歩んだ岩合光昭さん。現在は世界各地を回り、ライオンから猫まであらゆる動物を撮影。２月22日公開の『ねことじいちゃん』で映画監督デビューする岩合さんに話をお聞きしました。

猫は自然そのもの。人間の体に眠る自然や野生を呼び起こす

　猫をはじめ、動物たちのさまざまな表情をファインダーに収めてきた岩合さん。放送中のＴＶ『岩合光昭の世界ネコ歩き』など、猫目線で捉えた映像や写真に驚いた人も多いでしょう。
　「いつも心がけているのは、猫が来そうな場所へ先回りしてカメラを構えることです。猫がいる場所に後から行っても『なんだ、お前は』という表情でこちらを見てきます。占有権を大切にする猫は、マナーを守らなければ撮らせてくれません」
　猫のことなら何でも知っているかと思いきや、岩合さんは首を横に振ります。
　「昔は知っているつもりでしたが、今でも見たことのない行動に遭遇することがあります。シャッターを切るたび、猫の素晴らしさを発見するばかりです。僕にとって猫は自然そのもの。湿度が高いとウトウトしますし、そうかと思えばハッとするしなやかな動きを見せます。僕たちの体に眠っている自然や野生を呼び起してくれる身近な存在です」

67歳で映画監督デビュー、スクリーンのどこかに必ず猫の姿

　47年に渡って動物写真家として活躍している岩合さんが、今回手にしたのはカメラではなくメガホンでした。映画監督の依頼を受けたとき、喜びと戸惑いがあったそうです。
　「映像に関わる人間であれば、映画監督は誰でもやってみたいものです。ただ、大変なことなので…。２～３度打ち合わせを重ね、引き受けたいとお伝えしました。撮りたいシーンが思い浮かびましたし、やはり猫の映画ということが大きかったですね」
　原作は、妻に先立たれた大吉と猫のタマを描いた漫画『ねことじいちゃん』。岩合さん自身も読んでいたそうで、大吉役には立川志の輔さんを熱望。もう一匹の主役であるタマには、オーディション時に志の輔さんに懐いたベーコンを抜擢しました。撮影本番、ベーコンに特別な演技指導をしていたそうです。
　「毎朝いいこだねと声をかけたり、今日はこのシーンだよって脚本を見せていました（笑）。お互い気心が知れるというか、やりやすくなりました」
　ほぼ全シーンに登場する猫、豪華キャストと猫とのやりとりなど、映画というフィクションの世界でも岩合流が垣間見えます。
　「志の輔師匠の胸の上でタマが寝るシーンがあります。あれは、眠そうだからと急遽カメラをまわして撮影できたもの。また、喧嘩する猫たちを小林薫さんが『ケンカするなよ』となだめるシーン。喧嘩も小林さんの言葉もいわばアドリブ。猫も人も自然体なんですね。こちらの思惑を良い意味で裏切ってくれる、猫ならではのシーンを映画では数多く使っています」
　物語は島を離れる若者、都会生活を捨てて島へ移った女性、静かに訪れる老いなど、人生の縮図のような出来事を穏やかに描いています。猫好きだけでなく、幅広い年代が楽しめる作品に仕上がっています。
　「ノンフィクションは一瞬にドラマがありますが、フィクションにはドラマを紡ぐ醍醐味があります。撮影をした佐久島の美しい自然、猫の仕草や行動、ほのぼのとした物語を楽しんでいただければうれしいですね」
　最後に今後の目標をお聞きしました。
　「猫との付き合いも随分経ちました。もうそろそろ、僕のことを友達にしてもいいと思ってほしいな（笑）。ずっと片道通行で思いを寄せていましたから」
　そう優しく語り、岩合さんに頭を撫でられた猫のベーコンが微笑んだように見えました。

■プロフィール

動物写真家／岩合 光昭

1950年東京都生まれ。世界的なネイチャー雑誌「ナショナルジオグラフィック」の表紙を２度飾った日本でただひとりの動物写真家（2018年12月時点）。2012年にＮＨＫ─ＢＳプレミアムで放送開始した『岩合光昭の世界ネコ歩き』は好評放送中。

■インフォメーション

ねことじいちゃん
２月22日㈮全国公開 

■監督／岩合光昭
■出演／立川志の輔、柴咲コウ、小林薫、田中裕子、柄本佑、ベーコン他