俳優として40年以上のキャリアを誇り、映画を中心に活躍している役所広司さん。自身の出演作を目にすると、いまだに「反省ばかり」という謙虚な姿勢は、俳優として成長を続ける証かもしれません。家族をテーマにした最新作『ファミリア』、家族の在り方について聞きました。

国民的俳優が少年時代に夢中になった映画

　78年に役者デビューし、今や日本映画に欠かすことのできない俳優となった役所広司さん。映画との出合いは少年時代にまで遡ります。
　「幼い頃、子ども料金で観られる日曜日に映画館へよく行っていました。当時は怪獣ものやクレイジーキャッツが好きでしたね。貧しいながらも、幸せな少年時代でした」
　映画が観られないときは、微かにもれてくる音を聴きに映画館へ足を運んだと笑う役所さん。60年余りが経ち、今やスマートフォンで映画が観られる時代になりました。
　「映画を観てくれるだけでもありがたいことです。だけど、やっぱり映画館で観るのが一番。だからこそスクリーンで楽しめるスケールの大きい物語を届けたいし、そういう作品が僕自身も好きです。映画には表現の自由が残されています」

 演じたのは普通の男　　境遇の違う者同士が痛みを共感するために

　そんな役所さんが主演を務める最新作が『ファミリア』（来年1月６日公開）です。
　国際化した現代で浮き彫りとなった問題を描いた本作は、脚本のいながききよたかさんの身近に存在した在日ブラジル人たちの過酷な現状、そして北アフリカで実際に起きた事件が題材。キャストには日本で暮らす日系ブラジル人も名を連ね、当事者としてリアリティを加えています。
　「この作品を通し、外国の方が島国の日本に溶け込むのは、簡単ではないことを改めて感じました。国際化していくなか、まず日本で起きている現状を知ることも大切なんですね」
　役所さんが演じたのは、早くに妻を亡くした陶器職人の誠治。優秀な息子・学（吉沢亮さん）は海外赴任先で難民出身の女性と結婚し、それを機に父の跡を継ごうと考えていた。ある日、親子の前に傷を負ったブラジル人青年のマルコス（サガエルカスさん）が逃げ込む。ふたりが介抱した青年は「半グレ集団」に追われていた。一方、赴任先へ戻った学は事件に巻き込まれ…。誠治らに突きつけられる残酷な現実、行き場のない怒り。それでも国籍や境遇の違いを超えて、〝家族〟というつながりを求める人々の希望を描いています。
　「演じた誠治はヒーローでも何でもない普通の男。児童養護施設育ちで親の愛を知らず、息子の学とどう接したらいいのか分からない。一方、マルコスは、いつしか誠治に父の姿を重ねるようになります。血のつながった家族にはなれないけど、互いの痛みを共感していく。それは人々が社会で生きていく上で大切なことだと思います」
　ときに他者を拒み、また家族の関係性ですら希薄になりつつある現代。役所さんが考える家族の在り方とは何でしょうか。
　「相手の痛みを自分のことのように感じられる─それが家族なんじゃないかな。だけど、現代は核家族化し、子、孫と世代が離れるほど遠慮しがち。大家族が当たり前だった昔は、家の中に口うるさい祖父母もいました。煩わしさも温もりもありましたが、そういう関係性は今はもう残っていません。そんな日本人が大切にした家族のかたちを伝えていくのも映画の役割じゃないでしょうか」
　数々の名作映画に出演してきた役所さんですが、役者として大きな目標があります。
　「日本映画には世界中の人々が認める作品がたくさんあります。僕が死んだあとも、観てもらえる作品に一本でも多く出たい。それが俳優を続ける原動力になっています」

■プロフィール

俳優／役所広司

1956年、長崎県諫早市生まれ。1996年『Shall we ダンス？』、『眠る男』、『シャブ極道』の3作品で国内主演男優賞を独占。その後も主演映画多数。近年では『三度目の殺人』、『孤狼の血』、『すばらしき世界』、『峠 最後のサムライ』などに出演。今後は映画『銀河鉄道の父』が23年GW全国公開、Netflixシリーズ『THE DAYS』が23年配信予定。またヴィム・ヴェンダース監督によるプロジェクト『THE TOKYO TOILET Art Project』の映画にも出演予定。日本を代表する俳優として活躍している。

 ■ヘアメイク／勇見勝彦（THYMON Inc.）、スタイリスト／安野ともこ、スーツ／￥184,800、シャツ／￥95,700、チーフ／￥13,200（いずれもEMPORIO ARMANI＜エンポリオ アルマーニ＞）【問】ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社（☎03-6274-7070、東京都中央区銀座5-5-4アルマーニ銀座タワー）

■インフォメーション

『ファミリア』

2023年１月６日（金）
全国公開

■出演：役所広司
吉沢亮／サガエルカス、ワケドファジレ／佐藤浩市 　他
■監督：成島出