俳優座養成所と文学座を経て、80代となった今も俳優として活躍する小野武彦さん。シリアスからコミカルな役柄まで、あらゆる役をこなしてきた小野さんですが、芸歴57年目にして『シェアの法則』で映画初主演を果たします。作品の見どころをお聞きしました。

80歳で映画初主演！

「いつもと同じ気持ちで演じています」

　70年代に人気を集めたドラマ『大都会』シリーズへレギュラー出演し、広くお茶の間で知られるようになった小野武彦さん。長年愛されたドラマ・映画『踊る大捜査線』シリーズや、数多くのＮＨＫ大河ドラマに出演。テレビドラマを中心にバイプレーヤーとして活躍しています。８月に81歳を迎えましたが、現役を貫く小野さんは映画『シェアの法則』（10月14日から全国順次公開中）で主演を務めています。
　「これまでドラマや舞台で主演はありましたが、映画では初です。ただ、この作品は群像劇なので『俺が主役』という感じではありません。だから、いつもと変わらない気持ちで演じています」と小野さん。撮影現場にはいち早く入り、演技に備えるルーティンは本作でも変わらなかったそうです。

昭和世代の男性が価値観の違う人と衝突。

思いやりに気づく物語

　東京都心に近い住宅街にあるシェアハウス。春山夫妻が営み、管理人の妻・喜代子は住む場所が限られた水商売の女性、出稼ぎにきた中国人、若手劇団員などを快く受け入れていた。住人から母親のように慕われる妻とは対照的に、人づきあいが苦手なのが夫の秀夫。今では自宅に帰ることなく、自身が経営する税理士事務所で寝泊まりをしている。しかしある日、妻が入院したため、秀夫が管理人を務めることに。ひとつ屋根の下で暮らし始めても住人とも打ち解けないばかりか、家賃アップを要求する始末。また、厳格な父には打ち明けられない思いを抱いた息子・隆志の姿があった。そんななか、住人それぞれが抱える問題を知り、秀夫の心は少しずつ変化していく。
　衝突を繰り返しながら、他人を思いやる大切さに気付いていく本作。キャバクラで働く女性役に貫地谷しほりさん、秀夫の息子役に浅香航大さん、シェアハウスのお節介な隣人役に鷲尾真知子さんらが脇を固めています。シェアハウスの管理人を務める喜代子役が宮崎美子さんのデビュードラマ（ＴＢＳ「元気です」）で小野さんと共演した間柄。実力派俳優らとの掛け合い、そして小野さんが演じる秀夫の心変りが見どころのひとつです。
　「秀夫は真面目で堅物のいわゆる昭和世代の男性です。ただ、秀夫と同じように時代の変化に対応しきれない感覚は、自分の中にも少しありました。
　今や女性の社会進出は当たり前です。テレビ制作の現場は長らく男ばかりでしたが、今では女性が素晴らしい作品を手がけています。役者として、人としても古い感覚を引きずってはいけないと気づかされます」
　多様性の時代とも言われる現代。それぞれが持つ個性を認め、さまざまな価値観を持つ人が幸せに暮らす社会づくりが急速に行われています。一方、これまでの常識が気づかない内に偏見に変わっているおそろしさもあります。他人を尊重する大切さを描いた本作は、現代を生きるヒントがあるかもしれません。
　「今年の高校野球は慶應義塾高校が優勝しました。１０７年ぶりの優勝も話題でしたが、議論になったのが長髪の是非です。甲子園球児と言えば丸坊主が当たり前でしたから。ただ、少し考えれば分かることですが、髪の長さと野球のうまさは何ひとつ関係ありません。こんな思い込みは世の中にいくらでもあるんでしょうね。
　時代は変わっていきます。固定観念に縛られず、昔とは違うこと、自分とは違う考えを受け入れる寛容さを持つことが大切じゃないですか」

■プロフィール

俳優／小野 武彦

1942年生まれ、東京都出身。俳優座養成所（15期生）、文学座を経て、映画、ドラマ、舞台など幅広く活躍。主なドラマに、大河ドラマ『新選組！』（ＮＨＫ）『王様のレストラン』『踊る大捜査線』（フジテレビ）、『科捜研の女』（テレビ朝日）など。今秋から『ブラックファミリア～新堂家の復讐～』（読売テレビ）に出演中。

■インフォメーション

『シェアの法則』

●10月14日から新宿K's cinemaほか全国順次公開中

●10月21日からジャック＆ベティほか全国順次公開

■出演：小野武彦、貫地谷しほり、浅香航大／鷲尾真知子、宮崎美子 他
■監督：久万真路