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一期一筆
- 1本のステッキ 2024.10.17
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ちょび髭にステッキと山高帽、それに蟹股歩き。英国生まれの喜劇王チャーリー・チャップリン(1889~1977年)のトレードマークである。そんなチャップリンに感化されたわけではないが、シンプルな1本のステッキを購入した。〝老いの入舞〟というか、自身の新たな人生スタイルへの挑戦である。
ヨーロッパでは、ステッキが個人の経済力や社会的な力などを示す自己顕示アイテムの一つ。階級制度が根強く残る英国では、上流階級の者は、きちんとした身なりでステッキを持つべきだという意識が強かったほか、剣や銃を中に仕込み、護身用に持ち歩いていたという説もある。
ステッキに中折れ帽子。明治時代に入ると、この英国紳士を気取ったジェントルマンスタイルが日本でも一世を風靡した。ただ、軍部が〝敵性文化〟の烙印を押したのだろう、昭和の第2次世界大戦を境に国内のステッキファッション熱は見事なほど一気に冷め、現在に至っている。
今回のステッキ購入は、戦前の〝ステッキ文化〟へのあこがれなどではなく、自身の新たな人生スタイルの開拓が目的。〈ファッションは廃れる。しかしスタイルは永遠である〉。ファッション界の巨匠イブ・サンローラン(1936~2008年)が遺したこの言葉にも背中を押された。
自分のライフスタイルを創り上げる〝遊び心〟を、1本のステッキに託し、これからの人生を楽しみたいと思っている。黒色の中折れ帽は今春、衝動買いしたばかりのものがある。ダンディな〝ステッキ老人〟の街。そんな地域造りも面白そうな気がする。(石井仁・読売新聞東京本社元記者)