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一期一筆
- ジャガイモ飢饉 2025.06.16
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ジャガイモは、アメリカ合衆国の礎をつくった食物と言われることもある。米国とジャガイモ? いきなりそんなことを言われても…と思うだろうが、ある面ではそうなのである。話は19世紀半ばの1845~49年に起こった英国の隣国・アイルランドでのジャガイモ大飢饉まで遡る。
アイルランドは〈一日に四季がある〉と言われる寒冷の国。そのため小麦が育ちにくく、ジャガイモが主食となっていた。その主食であるジャガイモの疫病が大流行し、栽培していたジャガイモが全土で壊滅。食料不足による死者も続出した。これが同国の〝ジャガイモ大飢饉〟である。
この飢饉で生活が困窮した数百万人のアイルランド人が、食べ物や仕事を求めて新天地・アメリカ大陸へ渡った。病気が蔓延し〝棺桶船〟などと言われるなど多難な渡航でもあったが、この大量移民者の努力で、ならず者などが多かった国が普通の常識的な国となり、さらに大国に発展したことから、ジャガイモが米国をつくった食物と今だに言われている所以でもある。
ただ、ジャガイモ飢饉の教訓もある。収量が多く、美味しい〝エリート・ジャガイモ〟栽培に特化し過ぎた弊害である。本来は収量の多い品種だけではなく、病気に強い品種など万一に備えた個性豊かなジャガイモ栽培を心掛けるのが、生産者側の鉄則であり常識だ。
この常識は、人間社会にも言える鉄則だ。〝エリート集団〟や特定の支持者に配慮した政治や企業は、亡びるのも早い。目指すべきは個性豊かな多様性に満ちた社会である。ジャガイモ飢饉。トランプ米大統領が学ぶべき教訓だ。(石井仁・読売新聞東京本社元記者)