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一期一筆
- 後藤新平論集 2025.09.17
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〈日本人は近視眼である。島国根性の然らしむるところか知らぬが、着眼点が小さくて困る。国民性に雄渾荘重という趣を欠いている。従って動もすれば些細な蝸牛角上の争いを好む癖があって、互いに小城壁を造り、個人主義の思想に傾きたがる〉――。
これは、1910年(明冶43)10月1日付の『実業之世界』に掲載された〝時代に呼ばれた男〟後藤新平(1857~1929)の一文である。藤原書店から今年7月20日に発行された『後藤新平論集』に収録されている「青年たちよ」から抜粋した新平の日本人論である。
幕末に岩手県奥州市の武家に生まれた新平。個人を治す医者から、国家を治す医者を目指して官僚に転身し、台湾や満州の近代化や逓信大臣、鉄道院総裁として人材育成を含め多大な実績を残した。関東大震災直後には、復興院総裁として百年先を見据えた首都の復興プランをわずか数か月で作成、これまで育ててきた人材群も総動員した。
一にも人、二にも人、三にも人と語り、次世代を担う〝人材の種蒔き〟に徹した新平。同論集では、当時の若者たちへの自身の仕事の流儀や人生論も披瀝しており、現代の若者の心も満たす教訓も掲載されている。
部下を育てる極意も記している。まず能力に適するような重荷を与えればよいと述べたうえで、人間は部下が育ち、自分と同等の力を持つようになると、嫉妬心から排斥したり、邪魔をしたりするようになる。動物である人間の本能的な弱点だが、人の上に立つ人間は、その弊害に陥ってはならないとも説いている。おススメの一書だ。(石井仁・読売新聞東京本社元記者)