アクティブなシニアライフを応援する情報サイト
一期一筆
- 偏差値より変さ値 2026.06.16
-
〈私たちは一度だけしか生まれない。前の生活から得た経験をたずさえてもう一つの生活を始めることは決してできない〉。著書『存在の耐えられない軽さ』で知られるチェコスロバキア生まれのフランスの作家ミラン・クンデラ(1929~2023年)が評論『小説の精神』(法政大学出版局)に遺した一文である。
続きがある。〈私たちは若さのなんたるかを知ることなく少年時代を去り、結婚の意味を知らずに結婚し、老境に入るときですら、自分が何に向って歩んでいるかを知らない〉とある。
鋭い人間洞察眼だ。〈老境に入るときですら…〉の言葉に返す言葉を持っていない人は日本人に多い。周囲の目を気にして自分の個性を抑え、〝同調圧力〟に身を委ねる傾向が強い民族だからである。
「変でいい。それが、あなたの武器になる」「偏差値より変さ値」―。東京医科歯科大学を卒業し、30歳代で諏訪中央病院長になり、赤字病院を再生した医師兼作家・鎌田實氏が長年、中高生に語り続けてきた言葉だが、自分を粗末に生きてきた人にも贈りたい言葉だ。
確かに我が国は偏差値重視社会だが、偏差値で人生が決まる社会は本来おかしいのである。誰もが個性的で独創的な人生を大手を振って歩む。そんな素敵な社会であってほしいものだ。
鎌田氏は今年3月、阿川佐和子、加藤登紀子、森下洋子、村木厚子さんら10人の個性的な〝変さ値〟を持つ女性を取材した著書『女の〝変さ値〟』(潮出版社)を刊行した。「皆と違うものを持つ。これは生きる武器になる」。取材で同氏がたどり着いた結論。男性にも通じる極意だ。(石井仁・読売新聞東京本社元記者)









