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野史の巨人 2026.07.21
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 権力を持つ側に都合のよい事項で編纂された歴史は《正史》と呼ばれる。一方、庶民の生活視点で歴史を編んだものは《野史》などと言われている。〝山口県大島の百姓〟を自称し、日本列島をくまなく歩き、その地域の生活や文化を詳細に綴った民俗学者・宮本常一(1907~81年)は、野史の第一人者だった。
 現在の山口県周防大島町で農家の長男として生まれた。父から農民の作業心得と見聞を広げる旅の大切さを学んだ。35年に出会った大阪財界人・渋沢敬三からも徹して全国を見て歩くことと、「舞台で主役をつとめていると、多くのことを見落としてしまう。その中に大事なものがある」と助言され、宮本の生涯を決定づける言葉になったという。
 〝旅する巨人〟と言われた所以でもあるが、彼は旅の見聞を活かした農業指導や離島・山村振興策、地域起こしなど多くの暮し向上提言も行っている。徹して世話焼きばっぱらに寄り添い、60年に編んだ著書『忘れられた日本人』は、彼の代表作として現在も高く評価されている。
 〈私は長い間歩きつづけてきた。そして多くの人に会い、多くのものを見てきた。(中略)その道程の中で考えつづけた一つは、いったい進歩というのは何であろうか。発展とは何であろうかということであった。(中略)〉。もう少し引用させていただきたい。
 〈進歩のかげに退歩しつつあるものを見定めてゆくことこそ、われわれに課されている、もっとも重要な課題ではないかと思う〉。これは宮本が死の3年前に自叙伝『民俗学の旅』に遺した一文だ。グサリと胸に刺さってくる。(石井仁・読売新聞東京本社元記者)


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