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聖マリアンナ医科大学病院 スーパー医師による医療情報
- こどもたちの「いのち」を守る、小児集中治療の拠点を~小児集中治療科部長 川口 敦先生 2025.07.06
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小児集中治療室(PICU:Pediatric Intensive Care Unit)は、重篤な状態にあるこどもたちに対して、全身管理を含む包括的かつ高度な医療を集中的に提供するユニットです。そこで診療の中心を担うのが「小児集中治療医」であり、重症小児に特化した臨床スキルと判断力をもって、疾患や臓器を問わず総合的に治療にあたります。
著者が長年在籍したカナダなどでは、小児集中治療は小児科あるいは麻酔科のサブスペシャリティとして確立されており、専門医研修プログラムや認定制度も成熟しています。成人のICUと異なり、成長・発達段階に応じたきめ細やかな評価と介入が求められるため、専門的トレーニングを受けた小児集中治療医の関与は不可欠です。
日本でも近年、PICUの整備が進み、小児集中治療医が常駐し、主たる診療責任を担う体制を有する施設が増加しています。これは医療の高度化や安全管理の要請、さらには働き方改革への対応といった観点からも、必然的な進展といえるでしょう。
聖マリアンナ医科大学病院では、2022年にPICUを開設し、2024年には小児集中治療科を新設。「かわさき小児救命・集中治療センター」として体制を拡充しました。神奈川県北部および川崎市を中心とする医療圏において、24時間365日体制で重症小児の受け入れを行い、中核的な役割を果たしています。内因性疾患、外傷、術後管理まで幅広い症例に対応し、専門医主導による医療を実現しています。
当科に所属する小児集中治療医は、国内外の専門施設で高度な研修を積んだ医師たちで構成されており、2025年4月現在、専任スタッフは8名、さらに小児集中治療専門研修プログラムに在籍する医師が3名おり、24時間体制で日々の診療・教育・研究にあたっています。
またPICUでは、ECMO、CHDF、血漿交換、神経モニタリングといった先進的な集中治療技術を積極的に導入。薬剤師、臨床工学技士、理学療法士、栄養士、認定看護師など、多職種が協働するチーム医療体制を確立し、包括的かつ継続的なケアを提供しています。
とりわけ、全国的にもごく限られた小児専門施設でのみ対応が可能な小児の気道疾患に対する集学的管理や、新生児期から移行期・成人期までを見据えた先天性心疾患の集中治療に注力している点は、当センターの大きな特長です。これらの分野では、小児心臓血管外科、小児外科、脳神経外科、形成外科、麻酔科、耳鼻咽喉科など、多岐にわたる診療科との密な連携体制のもと、精緻で安全性の高い医療を提供しています。
さらに当センターは、「地域小児医療の一部」としての機能も重視し、医療圏全体の安全網としての役割を担っています。院内には迎え搬送専任チームを常設し、24時間体制で病院間搬送に対応。地域の医療機関とのPICUホットラインを活用し、迅速なコンサルテーションと早期介入を可能とする連携体制を構築しています。
私たちは、臓器や診療科の壁を越えて、「すべての子どもに質の高い集中治療を届ける」ことを理念としています。今ある命を救うだけでなく、未来へつなげる医療を実践すること。それが、聖マリアンナ医科大学病院小児集中治療科の使命です。■取材協力
聖マリアンナ医科大学病院(神奈川県川崎市宮前区菅生2‐16‐1)
☎044‐977‐8111㈹