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聖マリアンナ医科大学病院 スーパー医師による医療情報
- 大動脈解離発症のリスクを下げるために~大学病院 心臓血管外科部長 縄田 寛先生 2025.09.06
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大動脈解離という病気をご存じでしょうか。突然の激しい胸や背中の痛みで発症するこの病気は、心臓から全身に血液を送る「大動脈」の壁が剥離してしまう極めて重篤な疾患です。
特にスタンフォードA型と呼ばれる、心臓に近い大動脈の壁が剥離している状態は生命の危険が高い病状で、迅速な診断と心臓血管外科チームによる緊急手術が求められる急性疾患です。残念ながら助からないことも少なくありません。著名人がこの病気で急逝したニュースが報じられるたびに世間でも注目が集まります。
年齢や生活習慣、基礎疾患によってリスクが高まることが知られていますが、通常は自覚症状のないところから突然発症します。人口10万人あたり年間5人程度の発症率と言われる大動脈解離の主な危険因子には、高血圧、喫煙、動脈硬化、マルファン症候群などの遺伝性疾患、過度なストレスや激しい運動、さらには妊娠・出産後の女性に起こることもあります。健康診断を受ける習慣・意識の乏しい中高年の男性や、高血圧を放置している人ではリスクが高いことが報告されています。また血縁の方に同様の病気を患った方がいらっしゃる場合も要注意です。
急性大動脈解離は、一度発症すると、多くの場合は緊急手術や集中治療が必要です。幸い命が助かった後も、残存する病変の経過観察や遠隔期合併症の予防のために継続的な通院や生活習慣の見直しが不可欠になります。
つまり、大動脈解離は「助かった後の人生」にも大きな影響を及ぼす病気と言えます。だからこそ大切なのは、「発症しないようにすること」、すなわち予防です。まずは血圧を適切に管理すること、減塩・禁煙・適度な運動といった生活習慣の改善、画像検査を含む定期的な健康診断を受けることが、発症リスクを下げる有効な手段となります。
私たち心臓血管外科チームは、発症してからの治療に全力を尽くすのはもちろんですが、地域の皆さまが「大動脈解離を発症しない」よう予防の啓発にも力を入れています。大動脈解離は、決して他人事ではありません。どうか一度、ご自身の健康状態と生活習慣を振り返ってみてください。■取材協力
聖マリアンナ医科大学病院(神奈川県川崎市宮前区菅生2‐16‐1)
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